広島高等裁判所岡山支部 平成9年(ネ)208号 判決 1998年3月26日
控訴人兼附帯被控訴人
竹内昭平
ほか一名
被控訴人兼附帯控訴人(原告)
片岡香奈江
主文
一 本件各控訴を棄却する。
二 附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
三 控訴人らは、被控訴人に対し、各自金六二八万五三七八円及びこれに対する平成六年五月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 控訴人竹内昭平は、被控訴人に対し、金六二八万五三七八円及びこれに対する平成六年五月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被控訴人のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用のうち、本件各控訴の提起に要した費用は控訴人らの負担とし、その余の費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その四を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
七 この判決の三、四項は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(控訴)
一 控訴人ら
1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 主文一項同旨
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
(附帯控訴)
一 被控訴人
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人竹内昭平は、被控訴人に対し、金二九二三万二四六〇円及びこれに対する平成六年五月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 控訴人竹内さちよは、被控訴人に対し、控訴人竹内昭平と連帯して、前項の金員のうち金一四六一万六二三〇円及びこれに対する平成六年五月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。
二 控訴人ら
1 本件附帯控訴を棄却する。
2 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
以下のとおり付加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決四頁四行目「交通事故」の次に「(以下『本件事故』という)」を加える。
2 原判決四頁六行目末尾に「路上」を加える。
3 原判決七頁六行目から七行目にかけて「後遺障害等級第七級一二号の事前認定」を以下のとおり改める。
「以上の後遺症は、自動車保険料率算定会の調査事務所により自賠責後遺障害等級表七級一二号所定の『女子の外貌に著しい醜状を残すもの』に該当するという事前認定を受けた」
4 原判決八頁五行目「満六七歳までの」を削る。
第三証拠
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、控訴人竹内昭平に対する関係で一二五七万〇七五六円及びこれに対する遅延損害金の限度で、控訴人竹内さちよに対する関係で六二八万五三七八円及びこれに対する遅延損害金の限度で、それぞれ理由があるから、被控訴人の請求を右各限度で認容し、その余の請求は理由がないので棄却するべきであると判断する。その理由は、以下のとおり付加訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決一三頁七行目「甲第一二ないし二〇号証」を「甲第一二の1・2、第一三ないし第一六、第一七の1ないし5、第一八、第一九の1・2、第二〇号証」に改める。
2 原判決一四頁四行目から六行目までを以下のとおり改める。
「3 傷害慰謝料 一〇〇万円
被控訴人の入院日数(一四日)、通院実日数(一九日)、受傷の部位・程度、治療経過を総合すると、傷害慰謝料は一〇〇万円と認めるのが相当である。」
3 原判決一四頁八行目から一五頁八・九行目「考慮すると」までを以下のとおり改める。
「被控訴人本人尋問の結果(原審)及び弁論の全趣旨によると、被控訴人(昭和五〇年九月二四日生)は、本件事故発生当時、専門学校のスチュワーデス課に在籍し、スチュワーデスとして就職することを希望していたが、本件事故後の平成七年六月ころ、二社の航空会社でスチュワーデス採用試験を受けたが採用されず、そのうち一社では本件事故による瘢痕があると採用が困難である旨言われたこと、被控訴人は、その後、電話サービス会社に勤務したり、コンピュータ関係の仕事に就いて、月額約一五万円(ほかに年二回約一〇万円の賞与)の収入を得ていることが認められる。
そして、甲第二一、第二二、第二三の1ないし4、第二五の1ないし7、第二六の1ないし11によれば、被控訴人の後遺障害のうち前額部瘢痕は長さ八センチメートルもあって人目を強く引き、他の顔面瘢痕(右瞼長さ二・五センチメートル、右目尻下長さ二・五センチメートル、左眉上部長さ二センチメートル)も、いずれも目の周辺にあって注意を引き易く、頭髪を下ろしてこれらを隠した場合、額の相当部分が隠れて陰鬱な印象を与える可能性があることが認められる。
右に認定した事実を総合すると、被控訴人の後遺障害は、その外貌(顔面)に醜状を残し、就労にも影響を及ぼしていると認めるのを相当とし」
4 原判決一六頁六行目から一七頁三行目までを以下のとおり改める。
「5 後遺障害慰謝料 九三〇万円
前記認定の後遺障害の内容、被控訴人が症状固定当時一九歳の未婚女性であったこと、スチュワーデス採用試験を受けた際に後遺障害を指摘されたこと等の諸般の事情を総合すれば、後遺障害慰謝料は九三〇万円と認めるのが相当である。
6 合計 二二四五万〇五六〇円」
5 原判決一七頁四行目から一八頁末行までを以下のとおり改める。
「五 好意同乗について
甲第一号証、乙第四、五、八号証、被控訴人本人尋問の結果(原審)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
平成六年五月三日午後六時ころ、亡謙太は、友人らと魚釣りをするため、加害車両を運転し、フェリーで神戸市内から淡路島に向かった。加害車両には、友人である被控訴人、森谷沙代、吉田謙一が同乗した。亡謙太らは、フェリーに乗る前に、ビール(五〇〇ミリリットル)二本、ブランデー一本、水、氷などを購入した。同日午後八時ころ、亡謙太らは淡路島に着き、焼き肉レストランで食事をした。その後、亡謙太らは、釣場で魚釣りをし、被控訴人、森谷、吉田は、釣場で、持参したビールやブランデーを飲んだ。魚釣りの途中で雨が降ってきたので、魚釣りを中止し、亡謙太らは、同人運転の加害車両でドライブをした。被控訴人は助手席に同乗し、森谷、吉田は後部座席に同乗した。その途中、亡謙太は運転を誤り、本件事故を起こした。本件事故後の捜査では、亡謙太の体液一ミリリットル中に約〇・三ミリグラムのエチルアルコールが検出された。
以上の事実によれば、亡謙太が本件事故当時酒気帯びの状態にあったことは認められるものの、右数値を血中アルコール濃度とすると、一般に、酩酊状態がほとんど認められないといわれる程度に低く、また、被控訴人が亡謙太の飲酒状況を知っていたと認めるに足りる的確な証拠はない(被控訴人は、原審においては被控訴人自身が飲酒したことを否定する旨供述したが、控訴人らが当審において提出した損害保険リサーチ会社作成の調査報告書[乙第八号証]中の被控訴人の供述には、被控訴人、森谷、吉田が本件事故前に釣場においてそれぞれ少量ではあるが飲酒したことを認める旨の部分がある。しかしながら、亡謙太の飲酒状況については、被控訴人は、原審の供述及び乙八号証の供述部分においても、一貫して知らないと述べており、亡謙太ら四名が終始一緒にいたわけではない[女性二名はトイレに行ったり散策したりしたことが認められる。]ことを考えると、被控訴人の右供述が虚偽であると断定することは困難である。そうすると、被控訴人が助手席に同乗しながら、亡謙太の飲酒の事実につき知らなかったというのも疑問の余地はあるが、亡謙太の前記血中アルコール濃度の程度をあわせ考えると、被控訴人がこれを知っていたと認めるには足りないといわざるをえない。)。
以上の被控訴人と亡謙太の関係、被控訴人が加害車両に同乗した経緯、亡謙太の運転状況及び諸般の事情を総合考慮すると、本件損害賠償額の算定につき好意同乗として減額をしなければ、公平の原則ないし信義則に反するとまでは認めることができないので、好意同乗による減額はしないこととする。」
6 原判決一九頁四行目から六行目までを以下のとおり改める。
「七 弁護士費用 一一〇万円
認容された損害額、審理の経過その他事案の性質を総合すると、弁護士費用は一一〇万円と認めるのが相当である。」
7 原判決一九頁一〇行目から二〇頁九行目までを以下のとおり改める。
「以上によれば、被控訴人の本訴請求は、控訴人竹内昭平に対する関係では、運行供用者責任及び亡謙太の不法行為責任の相続(その二分の一の金額の限度で)に基づき、前記四の損害額二二四五万〇五六〇円から填補額一〇九七万九八〇四円を控除した残額一一四七万〇七五六円に弁護士費用一一〇万円を加えた損害合計一二五七万〇七五六円及びこれに対する本件事故の日である平成六年五月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める限度で、控訴人竹内さちよに対する関係では、不法行為責任に基づき亡謙太が負担すべき右損害金合計一二五七万〇七五六円のうち同控訴人が相続により承継した六二八万五三七八円及びこれに対する本件事故の日である平成六年五月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める限度で(控訴人竹内昭平に対するものと、右金額の限度で不真正連帯の関係にある。)、それぞれ理由があるから、右各限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却するべきである。」
二 以上によれば、原判決は一部不相当であるので、本件附帯控訴に基づきこれを変更し、本件各控訴は理由がないのでいずれも棄却し、訴訟費用につき民訴法六七条二項、六一条、六四条、六五条一項を、仮執行宣言につき民訴法二五九条、三一〇条を各適用ないし準用し、主文のとおり判決する(口頭弁論終結の日・平成一〇年二月二六日)。
(裁判官 妹尾圭策 上田昭典 市川昇)